研究の要点
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大阪市は、教員の指導力向上や授業内容の工夫に力を入れる「授業改善」を中心とした教育改革を実施しました。
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この改革により、家庭の経済状況(社会経済的背景、SES)が厳しい学校の子どもたちを含め、すべてのレベルで学力が向上したことが分かりました。
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特に、経済的に最も厳しい家庭の子どもたちが通う学校で、学力の伸びが大きかったことが確認されています。
研究の背景と大阪市の取り組み
日本では、子どもたちの約9人に1人が相対的貧困の状態にあり、家庭の経済状況が学習環境や学力に大きな影響を与え続けています。親の所得や学歴が子どもの教育機会に差を生み、それが将来の進学や仕事の格差につながる「教育格差の連鎖」は、長らく社会的な課題でした。
こうした状況に対し、大阪市は2016年度から教育改革を進めてきました。特に注目すべきは、「授業改善型アプローチ」という方法です。これは、特別な設備投資や大幅な予算増に頼るのではなく、先生方の指導力を高めたり、授業の進め方を工夫したりすることで、教室での学びの質全体を向上させることを目指しています。すべての生徒が、家庭の状況に関わらず質の高い授業を受けられるように、という狙いがあるんですね。
神戸大学、同志社大学、大阪市総合教育センターの研究チームは、この大阪市の取り組みが実際にどれほどの効果があったのかを、膨大なデータを使って詳しく分析しました。
明らかになった研究結果
研究では、全国学力・学習状況調査(2017年・2024年・2025年)と、大阪市の子どもたちの生活に関する実態調査(2016年・2023年)のデータを使い、以下のような点が明らかになりました。
1. 家庭の状況と学力には関連がある
まず、家庭の所得や保護者の学歴などを合わせた「社会経済的背景(SES)」という指標と、子どもの学力の間には強い関係があることが分かりました。簡単に言えば、家庭の経済状況が厳しい学校ほど、学力も低い傾向にあったということです。
2. 授業改善によって学力が向上
大阪市は2018年から、先生の指導力向上や授業内容の改善に力を入れる学力向上策を推進してきました。その結果、施策を行う前(2017年)と比べて、施策実施後(2024年、2025年)には、小学校の国語と算数、中学校の国語と数学の全ての科目で、学力がはっきりと上昇していることが確認されました。
全国平均を100とした場合の大阪市の小学校の学力変化を見ると、その効果がよく分かります。

3. どんな家庭環境の子も学力が上がった
さらに嬉しいことに、大阪市の全ての学校をSESの高低により4つのグループに分類して分析したところ、小学校の国語と算数では、すべてのレベルにおいて施策導入後の学力が導入前よりも有意に上昇していました。中学校でも国語と数学のすべてのレベルで改善が見られ、特に経済的に厳しい家庭の子どもたちが通う「レベル1」の学校でも学力が上がったことが示されています。これは、学力向上施策が、すべての子どもたちの底上げに貢献したことを意味します。
小学校国語の例では、SESのレベルに関わらず学力が向上している様子が分かります。

4. 経済的に厳しい家庭の子どもたちの伸びが特に大きい
今回の研究で特に注目すべきは、家庭の経済状況が最も厳しいとされる「レベル1」の学校群において、学力の伸び率が2024年は全教科で他のレベルを上回り、2025年も小学校算数を除いて、他のレベルを上回る結果となった点です。これは、授業改善が、家庭の経済格差によって生じる学力の差を埋める「教育の補償機能」として、非常に効果的であることを示しています。つまり、学校での質の高い授業が、家庭の状況による不利を補い、子どもたちの学力を引き上げる力になっているということですね。
小学生の保護者への影響
この研究結果は、私たち保護者にとって大きな安心材料になるのではないでしょうか。家庭の経済状況が子どもの学力に影響を与えるという現実はありますが、学校での「授業改善」という取り組みが、その差を縮める有効な手段であることが実証されたからです。特別な教材や塾に頼らなくても、日々の学校の授業の質が高まることで、すべての子どもが平等に学ぶ機会を得られる可能性を示しています。
学校教育の力が、子どもたちの未来を大きく左右する重要な要素であると再認識させられますね。
家庭でできること
では、私たち家庭では何ができるでしょうか。この研究からヒントを得るとすれば、まずは学校の授業を大切にする姿勢を子どもに伝えることです。先生方が日々工夫を凝らしている授業に、前向きに取り組むことの重要性を伝えましょう。また、学校での学びについて、積極的に子どもと対話する機会を持つことも大切です。今日の授業でどんなことを学んだのか、何が面白かったのか、難しかったのかなど、日々の会話の中で学校での学習に目を向けてあげてください。そうすることで、子どもの学習意欲を自然に高めることにつながるはずです。
まとめ
今回の大阪市の研究は、経済格差という難しい課題に対し、学校の「授業改善」が有効な解決策となり得ることを明確に示しました。すべての子どもたちが、家庭の状況に関わらず、質の高い教育を受け、その能力を最大限に伸ばせる社会の実現へ、大きな一歩となる希望に満ちたニュースと言えるでしょう。
本研究は、神戸大学計算社会科学研究センターをはじめとする複数の機関が共同で行いました。センターの活動については、以下のURLから詳細をご覧いただけます。
出典:プレスリリース

